大判例

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仙台高等裁判所 昭和29年(う)571号 判決

夜間貨物自動車の運転者が先行の客用自動車を追越さんとする場合に、何れも幅員約十三米の道路のほぼ中央を進行していて右客用自動車の右側は約六、七米に過ぎず、勢い自己の貨物自動車が道路中央よりも右側にまで進出しなければこれを追越すことができない状況にある以上、単に前車に追越しの合図をするのみでなく、反対方向から自動車等の進行し来ることを慮り、宜しく前方を注意してその有無を確認し、更に警笛を鳴らし、事に臨んで急停車等の臨機の処置を採り得るための万全の措置に出るべきは自動車運転者として当然の業務上の注意義務であり、特に追越しの行動に出る前に反対方向から進行し来る自動車等を発見したならば、たとえ三者並列してもそのいずれとも接触しない十分の間隔を保持して通抜けることができる場合でない限り、反対方向から進行し来る自動車等と行違つてから前車を追越すか、又は前車をして十分左側に避譲させて前叙間隔を十分保持して通抜けられると見究めてから追越す等危険の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるものといわなければならない。原審認定事実によれば、被告人は原判示夜八時頃原判示貨物自動車を操縦して時速約二十七、八粁を以て幅員十三米の道路を進行中、前方約五十米に時速約二十五粁を以て道路のほぼ中央を同方向に進行しているハイヤーを認め、これに追従して進行したが、自己の前方約十米に接近した際右ハイヤーを追越そうと考え同時に道路の前方右側即ち反対の方面約六十米の地点に原判示小型三輪貨物自動車の進行して来るのを発見したが、被告人は僅かに追越そうとする直前ライトを明滅して前車を二、三尺左に寄らしめただけで、他に何等の措置をもとらず、漫然右三輪車と接触することなく追越し得るものと軽信し、前記速力を以て右にハンドルを切つて前車をその右側において省略その半身を追越した時、自己の運転する右貨物自動車荷台の右角を折から進行してきた右三輪車の右側バツクミラー及び方向指示器の附着する附近に激突せしめ、同三輪車荷台の右端附近に腰を下ろして同乗していた川田溪治の頭部右側に突当て、因て原判示の如く同人を傷害して死に致したというのであり、原判決援用の被告人の検察官に対する第一回供述調書によれば被告人はハイヤーと三輪車との間隔が二間半位と思つたので、被告人の貨物自動車のボデーが七尺位ですれすれに通れると思い、別に警笛も鳴らさず、ヘツドライトも減光せず、その侭追越そうとして、右に出て三輪車とすれ違つたと思つた瞬間がちやんと音がしたもので、結局追越すに十分の間隔がないのにすれすれ位に追越せると思つて腕を信じて間隔を一、二寸見誤つたことに衝突の原因があると思うというのであるから、被告人は前叙注意義務を怠つて漫然ハイヤーを追越そうとした結果本件事故を惹起したものであることが明瞭であり、原判決が被告人の所為を業務上過失傷害致死罪に問擬したのは正当である。

論旨は、被告人が前車を追越す前に前方の発見できるところを三輪車が進行して来た場合ならば、被告人に業務上過失致死の責任があるかも知れないが、これを発見することが不可能であつたものであり、被告人は前車に合図し前車もこれに答えて左側に除行したため、その右側に進出してハイヤーと並行した際、前方に三輪車のライトを発見し、極力左側寄りにハイヤーの前方斜に進出しつつあつた折右三輪車が暴走してきてその右側突出部を被告人の貨物自動車に接触せしめたものであつて、過失は三輪車側に存する旨主張する。しかし、原判決は前叙の如く被告人が前車のハイヤーを追越す行動に出る前に前記三輪車を発見した事実を認めているのであつて、所論のように前車の右側に進出してこれと並行した際三輪車を発見したとの事実は原判決の認定しないところであり、記録を精査しても被告人は検挙以来原審の検証の際までも追越しの行動に出る前に三輪車を発見したことを自供しており、原審第三回の最終公判においてはじめて従来の供述を変更して論旨主張の如き事実を供述したものであり、しかもその際の供述に徴しても本件現場は前方にハイヤーが一台走つていても右側を注意すれば見える場所であるのに被告人は三輪車のライトが見えなかつたというのであつて、被告人の右供述は到底措信採用できないところであり、原判決のこの点に関する事実認定に過誤あることを疑うべき事由は存しない。されば、論旨はその前提を欠くものであるのみでなく、仮に論旨主張の如く追越す行動に出る前には三輪車を発見しなかつたものとしても、既に被告人は冒頭説明の前車を追越す場合の注意義務を怠つて追越しの行動に出たものであり、しかも後記の如くその行動に出た瞬間自己の貨物自動車を前記三輪車に衝突せしめたものであるから、被告人は業務上過失の責を免れるに由なく、所論自動車が高速度交通機関の故を以てこの責を免るべきものではない。

尤も、実況見分調書によれば、被告人の貨物自動車が本件三輪車に接触衝突した時、三輪車の左側部分の道路には二米一〇の余裕があつたことは認められるけれども、原審証人越谷富孝同山下正吾の証言によれば、同人等の乗つた本件三輪車が前方から道路のほぼ中央を進行してきたハイヤーとすれ違う瞬間、ハイヤーの後をやや距離をおいて走つてきた被告人の貨物自動車がハイヤーを追越そうとでも思つたのか突然ハイヤーの向つて左側に進出してきて三輪車に激突させたものであることが認められ(被告人の検察官に対する第一回供述調書に徴しても本件衝突がハイヤーを追越す行動に出た瞬間であつたことを自認しているのであつて、この点に関する被告人の原審における供述は措信できない)、三輪車の運転者は被告人の貨物自動車を避ける余裕のなかつたことが窺われるのであり、しかも記録に徴すれば被告人は追越しを禁ぜられている十字路の直前でハイヤー追越しの行動に出ているのであるから、三輪車の運転者において被告人の前車に対する追越しの合図に気付かなかつたとしてもこれらを以て直ちに所論のように三輪車側に業務上の過失あるものとは認め難く、仮に三輪車側にも過失があつたものとしても被告人の業務上の過失に何等消長を及ぼすものではない。なお、論旨は三輪車の運転者山下正吾が当時多量に飲酒していた旨主張するけれども、山下が当時飲酒していたことを認むべき証拠はなく、却つて被告人こそ当時飲酒していたことが被告人の検察官に対する第一回供述調書により明かである。ただし、三輪車のボデーに乗つていた被害者川田は当時相当飲酒していたことが原審証人越谷富孝の証言により認められ、現場写真(特に記録第五三丁、第五一丁、第四八丁の写真)に徴すれば、川田がその頭部をボデーの外側に突出していたかの疑があり、若し頭部を突出していなかつたならば受傷はともかく死は免れたかも知れないと推測される節があるけれども、それだからといつてそれが被告人の業務上の過失に何等影響するものではないこというまでもない。

以上説明の次第で、原判決には所論のような事実の誤認なく、業務上過失の認定を誤つた違法は存しない。論旨は理由がない。

(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)

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